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叢中に咲く一点の紅い花 8

 
 「ちょっと、暗黒の大将!!」
 「何だ? 俺に用か、女子?」
 千晶ちゃんの突然の問いかけに、敵陣の中心にいたコウヘイが振り返る。

 「オイ、千晶ちゃん?」
 その凛然とした後ろ姿にリュウジが声を掛けるが、千晶ちゃんはまっすぐ前を見たままそれには応えない。
 「あんた、元々はあたしに腹を立ててるんでしょ? だったらあたしが勝負したほうがいいんじゃないの?」
 「ほう──女子が相手か。それが鬼工の流儀なのか?」
 「ちょっと待て、コウヘイ。そんなんじゃねえ。オイ、千晶ちゃん。こっち来いや」
 千晶ちゃんはまだこちらを向かずにいる。
 
 勝負を前にリュウジを慌てさせるのはまずい。オレは出ていって、千晶ちゃんの手首を掴んだ。
 「ハヤト──」
 「いいから。ここはリュウジに任せよう。こんな時は総隊長の出番なんだから」
 「でも!!」
 そんなオレと千晶ちゃんのやりとりを、コウヘイは薄笑いを浮かべて見ている。
 
 「俺は誰が相手でも構わねえがなあ。どうした? 女子、やってみるか?」
 「いや。コウヘイ、水を差してすまない。相手はリュウジだ」
 「ハヤト!!!」
 千晶ちゃんは納得できないようだ。負けん気の強いところは普段なら天晴れで済むけど、今はそういうタイミングじゃない。

 そんな千晶ちゃんにノブオが詰め寄る。
 「千晶センパイ、頼みます。ここは兄貴に行ってもらってください。負けたオレが言うのもアレですけど……」
 「そうだ、千晶さん。今はリュウジが行くほかはないのだ、それが我々なりの闘いの流儀なので」
 ダイゴはわざと千晶ちゃんの目前に立ちはだかった。きっとコウヘイと千晶ちゃんの間を遮るために。
 
 人形みたいな美少女顔に壮絶な気迫の色を掃いた千晶ちゃんをなんとか宥めて、オレたちはふたたび陣営を張る。中心のリュウジは、オレが心配したほど気持ちを乱した様子もなくて、ただ気迫を漲らせて、勝負開始の間合いを計っているようだ。

 「コウヘイ!!! 覚悟はいいか?」
 「おうよ。いつでも来るがよい」
 そんなリーダーふたりの声が呼応しあったのが合図だ。

 スタート地点に向かう前にリュウジは千晶ちゃんを呼んだ。
 「千晶ちゃん、俺が必ず勝つぜ。だから責任なんて感じるんじゃねえぞ。千晶ちゃんは悪いことなんかしてねえんだからな」
 「リュウジ……」
 形のいい眉をすこし歪めて、千晶ちゃんはリュウジの名前を口にする。
 「そんな顔すんなや!!! 千晶ちゃんは鬼工のアイドルだろう? 他の奴らが見たら俺、生きて学校から出られなくなるぜ」
 こんな状況でも冗談交じりに他の者を元気づけるなんて、オレにはきっとできないな。やっぱり器とか、そういうやつなんだろう。
 「じゃあ行ってくるわ」
 軽く右手を挙げて、リュウジはコウヘイの待つラインへと単車を寄せていった。

 両軍の仲間が見守る中、リュウジとコウヘイの勝負が開幕する。
 排気量の大きい2台の単車が奏でるマフラー音は、夜の倉庫群にやたらと反響している。
 胃袋まで揺さぶってくるような爆音を耳に、オレたちはリュウジの遠ざかっていく姿を必死で目で追いかける。
 熾烈にぶつかり合いを展開しながら、国道のアスファルトをえぐる勢いで駆け抜けていく2台は、あっという間に視界から過ぎ去っていった。

 単車勝負は目前で繰り広げられる喧嘩とは違って、つぶさに戦況を見守ることができないのが待つ側には焦れったい。
 オレは比較的場数を踏んでいるほうなので、おのずと待つ身でいることは少ない。
 だからかどうか、こういう時の落ち着かない気分は人一倍なのかも。
 けど──今日ばかりはそんなことを言っていられない。
 千晶ちゃんが、やたらと蒼白な顔でリュウジの走り去った国道から目を離せなくなっているから。
 だからオレは、珍しく宥め役を買って出ることにした。少しは気が紛れるし。
 
 「千晶ちゃん。ほら、そんな心配するなってば。リュウジは絶対大丈夫だ。オレが保証する」
 「ハヤトぉ……」
 「リュウジはさ、誰かの仇を討つような場面だと神懸かりっぽい力を出せる漢だから。な、ダイゴ?」
 「押忍。守るべき存在のいる者は、想像でははかれないことをやってのけるものだ」
 「そうっスよ、千晶センパイ!! オレ、こんなこと言うから兄貴に叱られるんっスけど、でも兄貴が後ろにいてくれるってだけで心強くって。だから千晶センパイも、兄貴を思いっきり頼りにしてたらいいと思うっス」

 オレたちが口々に言うのを聞いて、千晶ちゃんはようやく頬の筋肉を、ほろりと緩めた。
 「そっか……リュウジはみんなの柱なんだもんね」
 「あ、いいこと言うね、千晶ちゃん。そうそう、なんだかんだ言ってもリュウジがいないと締まらないってか、成り立たないんだよな。オレたちは」
 「そうだな、ハヤト。今さらにそんなことを思うな」
 「ホントっすね。千晶センパイ、卓見っス!!!」
 「あは、ありがと。ノブオくん。でも、いいね。男同士の友情とかってさ。あたし中途半端に男で中途半端に女だからな。やっぱり憧れるよ」
 なんて千晶ちゃんが言う。

 「そう? でも千晶ちゃんはその気になればどっちの友情もできるじゃん? そっちのがお得じゃないの?」
 オレの何の気なしの言葉に、みんなは何でか「え?」って顔をした。
 「あの……お得とか、そういう話でもないんだけどな」
 「ここはリュウジの代わりに言うが……やはり視点が普通ではないな、ハヤト」
 「え? オレ、またおかしなこと言った? ダイゴ」
 「え~と、やっぱハヤトさんはハヤトさんっスね……」
 ──なんかわかんないけど、リュウジがいなくて助かったのかな、オレは。


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