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叢中に咲く一点の紅い花 9


 そうこうしているうちに、そろそろ勝負者ふたりが戻ってきてもいい頃合いになった。
 離れたところで地面に座っていた暗黒一家の連中も立ち上がって、見通しのいいあたりに陣を構え直す。
 
 やがて海からの風に乗って、リュウジたちのマシンの奏でる爆音が聞こえてきた。
 リュウジとコウヘイの実力はほぼ互角だ。まだ近くまで来てはいないのに、爆音のする方角から激しく散る火花が見えるような錯覚に陥る。
 まるで炎に包まれたようなオーラを出す2台のマシンが、オレたちの待つ倉庫群に突入してくる。最後の直線は、駆け引きなしの度胸勝負になる。
 オレは自分が勝負に出ているかのような緊張感に身を委ねた。

 残り300m──予想通り、2台の勢力の優劣は皆無だ。
 残り200m──コウヘイが一歩先んじているか?
 残り100m──リュウジ、頼む!!! みんな信じているから……

 オレの掌には、じっとり汗が滲んでいた。
 それをかたく握り直して、訪れる瞬間を待つ。
 リュウジとコウヘイの互いの自尊心を賭けた勝負の行方──

 ゴール直前に、何かに取り憑かれたような加速を見せたのはリュウジだった。
 灼熱色に空気が染まったかに見えたと思うと、リュウジのマシンがコウヘイを振り切って、ゴールラインを駆け抜けた!!
 「やった──リュウジの勝ちだ」
 オレは目の前が何でだかくらくらするのを感じながら呟いた。

 「よっしゃ!!! 面目は保てたな」
 単車をオレたちの近くに停めて、リュウジが笑んだ。
 それを見て、オレたちはみんな一瞬言葉よりも先に安堵と感嘆のため息をついていた。

 どうにか祝福を言えるようになったのは、そのすぐ後のこと。
 「兄貴!!! よかったっス~!!!」
 「押忍。さすがだ、リュウジ」
 「ほんとにね。頼りになるよ」
 オレたちはリュウジを囲んで、口々に言う。受けるリュウジは笑顔の中にもまだ緊張感を持続させている顔をしてた。
 
 「リュウジ──」
 その声のほうに目をやると、目を潤ませた千晶ちゃんがいた。
 「オウ!!! 心配かけたな、千晶ちゃん」
 「ううん。そんなことない。あたし信じてたもん、リュウジを。ね、ハヤト?」
 「ああ。そうだね」
 「リュウジ、ほんとにありがと。かっこよかったよ」
 今度のは、ちょこっと涙声だった。いけね、なんかオレもつられそうになったよ。

 しばしの後。単車のエンジンを停めて、コウヘイがオレたちの陣へ近づいてくる。背後には3人を引き連れていた。
 反射的にオレは身構えるが、リュウジは鷹揚とそれを待ち受けている。
 「リュウジよ。俺の負けだ」
 「オウ!!!」
 コウヘイの悔しそうな表情──ハンゾウもゴンタも、タカシも同様だ。
 「約束だ。非礼を詫びよう」
 コウヘイはそう言うなり、リュウジに頭を下げようとした。

 「いや、待て!!! コウヘイ」
 けれどもそれをリュウジが制したんだ。
 「──?」
 「俺らが遊びなんかじゃねえってわかればそれでいい」
 吐き捨てるようにリュウジは言う。
 「まあな、こうなる原因を作ったのはこっちだからな。謝られる筋じゃねえのは承知だぜ、本当はな」
 「リュウジ、貴様──」
 コウヘイは珍しく動揺している風だった。

 「俺らはいつでも本気だぜ!!! それが伝わりゃいいんだ、俺は。な、お前ら? そうだよな?」
 リュウジにそう言われて否やを唱える者なんて、いるわけがなかった。
 オレたちは無言で頷いて、肯定を告げたんだ。

 が──オレたちの中でひとりだけ口を開いた者がいる。
 「あの……えと、暗黒の大将」
 「うん? 何だ、女子」
 コウヘイの前へ進み出たのは、なんと千晶ちゃんだった。
 「あのね、こないだはごめんなさい。あたしが悪かったのかもしれない。ちょっと先を急いでたから挑発するような真似したみたいで」
 「ほう──?」
 ぺこりと頭を下げる千晶ちゃんの姿を、コウヘイたちは見ていた。
 
 「オイ、千晶ちゃん……」
 「いいの、リュウジ。あたしね、リュウジにも申し訳なくて」
 「いや、俺はどうってことねえぜ」
 「それに、暗黒の人たちにも迷惑かけたかもって思って」
 「ほう──リュウジよ。貴様のところの女子はなかなか気骨と礼節があるじゃねえか?」
 なあ、と仲間に同意を求めるようにコウヘイは視線をやると、暗黒一家の面々はそれに応えるように頷き返した。
 
 「鬼工の女子よ。覚えておけ」
 すこし間を置いて、コウヘイは千晶ちゃんを正面から見据えて言った。それへまっすぐに千晶ちゃんは視線を返す。
 「なあに?」
 「俺は逞しい精神を持った者は嫌いではない。それが女子であろうと、だ。それに免じて、先日のことは不問としよう」
 「──コウヘイ?」
 リュウジが問うのには、コウヘイは応えなかった。

 「だがまあ、次は容赦しねえからな。たとえ女子でもな」
 「ええ、わかったわ」
 千晶ちゃんはにこりと──さすが鬼工のアイドルたるところを見せて、まるでそれが必殺技であるかのようにコウヘイに笑いかけた。
 それを見たコウヘイは、あからさまに動揺していた──とオレは思った。だってちょっと顔が赤くならなかったか?
 千晶ちゃんを完全に女の子だと思ってるみたいだしな。べつに本当のことを教えてやる筋合いでもないから仕方ないけど。

 「それでは今日はそろそろ退くぞ、お前等」
 仲間を振り返って、ひときわ大きな声でコウヘイはそう言った。
 「了解です、総帥」
 「ラジャー!!」
 「モンガー!!!」
 それぞれ同意を告げると、暗黒一家は各々の単車のエンジンをスタートさせたんだ。

 立ち去り際、コウヘイは千晶ちゃんにこう言った。
 「女子よ。次は俺と勝負してみるか?」
 「それもいいかもね。あたし負けないよ? ハヤトにコーチしてもらうから」
 それへ皮肉めいた笑いを投げかけたのを潮に、コウヘイたちは爆音と共に去っていった。
 コウヘイ相手にそんな風に言えるヤツなんて──男でもそうそういないかも。

 オレたちは改めて、千晶ちゃんに賞賛のまなざしを向けたけど、当の千晶ちゃんはまったく気付いていなかった。
 「え? なに? なんかおかしなこと言った?」
 カラダは男でも、心は女の子。そんな千晶ちゃんはもしかしたら誰よりも──いやリュウジの次くらいに漢なのかもしれなかった。

 「いや、全然おかしなことなんて言ってねえぜ!!! むしろそれこそが俺らの信条だ。千晶ちゃんはやっぱり逞しいな」
 「ああ。リュウジの言うとおり! 千晶ちゃんって男前だよね」
 「ハヤト……オトコマエって、それは褒め言葉?」
 「ん? あ、そうか。間違えたなあ、オレ」
 まあいいけどね、なんて千晶ちゃんは笑ってる。リュウジたちもため息混じりに苦笑い。
 
 わが鬼工のアイドル・千晶ちゃんは、日々自分を磨くタイプの努力家だ。きっとそのうち、単車の腕だって上げてくるんじゃないかな。
 オレもうかうかしてられないかも、なんて思いながら、千晶ちゃんのストレートヘアが風になびくのを見てた。
 
 深夜の倉庫群で単車に跨る千晶ちゃんの姿──爆走天使の称号はもしかしたら千晶ちゃんに一番似合うのかもしれないな。


   * 叢中に咲く一点の紅い花 完 * 


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