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鬼浜戦隊ショウテンジャー 2-1



 舞台背面のパネルの写真が、ふたりの黒子――商店街の世話役の人らしい――によって貼り替えられた。場面転換の合図だ。
 最初の写真は商店街の町並み。それで新しく貼られたほうは、鬼浜鮮魚店の店構えのアップ写真だ。
 準備完了の頃合いを見計らって、ダイゴとオレの怪人組がはじめて舞台に上がる。
 オレの手にある小道具は食品サンプルの鯛。ダイゴはひまわりの花束を持ってる。
 よし、がんばろう。
 オレも声を張って、台詞言わないといけないんだ。
「見てみろよ、カイジングリーン。さすがにイキがいいよな、ここの魚は」
 手にした模造品の鯛を頭上に掲げてアピールするオレ。
「押忍、カイジンブルー。良い商店街には佳い品が自然と集まるゆえ」
 ダイゴも演技として、幾分乱暴に花束を振りかざした。
 どうだったろう。ちゃんと喋れていたんだろうか――いささか心配になるオレだけど、客席の子供たちからブーイングをもらったのでOKだったと理解できた。

 いかにブーイングとはいえ、客席から反応をもらえるのっておもしろいかも。そう考えたら気分上々。
「この調子で、商店街をオレたちのもとに跪かせようか。そしたら何だってできる」
「賛成だ。ところで腹が減ったな。壮大な計画の前には腹ごしらえが必要ではないか?」
「言えてる。何かうまいものを捜そうか、カイジングリーン」
「では手始めにラーメンでもいただくとしよう。旨い店があると聞いているので」
「あはははは。それはいい案だ」
「そうであろう? さあ、食って食って、食い尽くすのだ。わっはっは」
 言って、ダイゴとオレは客席をあおるような仕草をとって見せた。
「なんだって~?」
「ダメだぞ、怪人!! そんなの許さないからなっ」
「こんなやつら、やっつけちゃってよぅ」
 客席は最高潮に盛り上がっていた。まあ、大半は幼い声の野次だったけど。

 子供たちのテンションが、放っておいたら舞台に殺到しそうな感じになるぎりぎりを見切って、満を持して登場するヒーロー。
 パネル裏で最初の衣装からバトルスーツへ着替え、フルフェイスのマスクを装着した4人がそこで舞台に再登場となる。
「ショウリュウレッド、参上だぜ!!!」
 咆吼しつつ、設えられた舞台の脇にあった古木の枝から飛び降りたリュウジが姿を現す。衣装合わせのときに見た赤いマントが翻る瞬間、客席から歓声があがった。ひらりと姿を見せたあとのリュウジは、オレたちには見慣れた闘争ポーズを作ってた。
 その瞬間をあえて待っていたかのように、怪人たるダイゴとオレはわかりきった仕草で周囲を見回した。
「フィッシュシルバー、只今見参」
 得意のバク転を決めて俊也さんがリュウジに続く。舞台上手から下手までの連続技で客席を沸かせたあとにリュウジの横へ並んだ。
「フラワーホワイトの御目見得だ」
 白鳥先生の連続ターン、そしてジャンプ。華麗な身のこなしは、もともと白鳥先生目当てで来ていたらしいお姉さんたちだけでなく、地元の女の子たちも虜にした様子だった。
「デマエピンク、お待たせしました~」
 小走りにステージに上がるノブオは岡持を提げている。それを舞台後方へ置いてから白鳥先生に習ったターンとジャンプを見せる。華麗ではないけれど、なんか一生懸命さが伝わってきて微笑ましい。客席からは「ノブオ兄ちゃ~ん」なんて声がかかった。
「愛と」
「平和と」
「友情の」
「鬼浜戦隊」
「ショウテンジャー参上!!!」
 勢揃いしたヒーローは、ノブオ、白鳥先生、俊也さん、リュウジの順でひと言ずつ、最後は全員で声を合わせて決め台詞を言ったあとにポーズをとった。



鬼浜戦隊ショウテンジャー 1-2



 さて、そろそろオレたちの出番だ。
 怪人役のオレたちの衣装は、古くなった特攻服を染めたもの。ダイゴのは深緑、オレは紺色にした。暗めの色のほうがヒーローたちとの差がくっきりするからだ。
 ビニール製のマントを背中にかけて、顔がバレないようにメットとゴーグルを装着して。
 ダイゴが派手にデコレーションしてくれた、電飾までついている自転車。それぞれ風神と雷神のステッカーを貼ってあるそれに跨って、ダイゴとオレは握手を交わした。
「OK。行こうか、ダイゴ」
「押忍、ハヤト」
 頷き合ったオレたちは、自転車のスタンドを蹴って走り出す。
 客席後方の盆踊り用のやぐらを一周、さらにもう一周。ここらで後ろのほうに座っていた子供らの幾人かがこちらに気がつく。
 そのあと別々に、ダイゴは上手側(客席から舞台に向かって右側)の通路を、オレは下手側(客席から舞台に向かって左側)の通路を通って舞台裏へと自転車を走らせる。
 人目をひくように動くっていう意図どおり、次第に客席がざわめいてきていた。
 ……こんなときに言うのもアレだけど、彩色済みのダンボールで覆ってある自転車、やけにバランス悪くて。転んだりしないようにと内心びくびくのオレ。
 実際、人前に出ることの緊張感なんてきれいにどこかへ飛んでくぐらいの心持ちだった。
 
 台本通り無事に舞台裏まで辿り着いたオレは、一歩早かったダイゴの姿を見てほっと安堵しつつ、機材レンタル屋さんの人の手を借りてピンマイクをつけた。
「ハヤト、大丈夫だったか?」
「うん、何とか。けっこう必死だったけど」
「というか、残念だな。昼間だからか。電飾はあまり効果がなかったように思える」
「って、ダイゴ、余裕あるな……そんなとこまでチェックしてたのか」
「それはそうだ。俺にしてみればそれなりに作品なので。ハヤトにとってこの舞台そのものが作品なのと同義なのだ」
 ダイゴはこだわるタイプだなあ、と改めて感心してみたり。
 
 ダイゴと密かにやりとりしてる間も、客席はしっかり騒然となっていた。よしよし。
 パネルの裏で聞いていても、きちんと通るリュウジの声に頼もしさを感じるオレ。
「うん? 今、誰か通っていったよな? 見えたか?」
「見た、ぼく見たよ、リュウジ~」
「なに、あれ? おかしな自転車のってた!!!」
 客席から聞こえる子供の声。ダイゴがちょっとがっかりしてた。
「いかにも怪しい姿だったね、諸君? 誰だったんだろう」
「だな。マシンはおかしいってゆーか、割とかっこよかった気もするけども」
 俊也さんのこの台詞は完全にアドリブ。ダイゴ、これですこしは気分よくなったかな。
 
 裏にいるオレたちには見えないけれど、ここでノブオが舞台に上がったはず。
 リュウジと同じ昇龍軒の上っ張りで登場する手筈のノブオの声が聞こえてくる。きっかけを作る台詞が叫ばれた。
「兄貴!! 大変っス!! 今、妙な奴らが商店街に――!!」
「うん? なんだと?」
「出前の途中に見たんですけど、奴らきっと怪人っス!! さっきは花屋の兄貴んとこで騒いでて、今は魚屋の兄貴んとこで暴れてるんっスよ~!!」
「え。魚屋って、ウチか?」
「そうっス、俊也兄貴!!」
「もしや花が踏みにじられた? だとしたら由々しき問題だ」
「よっしゃ!!! ちょっと様子を見にいこうぜ!!!」
 ここで舞台上の4人は一旦上手にはけることになっている。
 なぜか客席から子供のではない黄色い歓声が起こったのは、おそらく白鳥先生がアドリブで何かやったんだろう。




鬼浜戦隊ショウテンジャー 1-1



 本番開始は午前11時。定刻まで10分を切った。
 舞台袖からちらりと覗くと、地面にござを敷き詰めただけの客席にはびっしりとお客さんが集まっていた。
 地元のちいさい子たちが主だけど、その家族らしき人たちもけっこういた。商店街でお馴染みの顔も数多ある。前もって仕込んである鬼工野球部の面々も確認できた。
 ポスター作成の仕事を請け負った亜由姉さんもいたし、亜由姉さんの友達で鬼工の保健室の遥先生の姿も見える。ほかにも知った顔がちらほらと。
 あとは、花束を抱えたお姉さん方の姿も見える。白鳥先生のファンの人たちかな? いったいどこで聞きつけてきたんだろう。
 開演5分前になると、短く鐘が振られた。商店街の抽選会のときに大当たりが出ると鳴らされるやつのようだ。

 その音を合図に、リュウジが言った。
「みんな、いい舞台にしようぜ!!!」
「は~い、兄貴!! オレ、ずっこけないようにがんばるっス」
「だな。俺も勢いつきすぎて舞台から落ちたりしないようにするわ」
「ふふふ。私は客席からの声援を浴びて輝いてみせるからね」
 ヒーロー組は口々に言ってる。思ったほど堅くなってる感じじゃないのがさすがだ。
「ハヤトもダイゴも、よろしく頼むぜ!!!」
「押忍。できるかぎりやってみよう」
「うん。そうだね。でもオレ、なんか緊張してるんだけど……」
「わははははは!!! ハヤトが緊張してるってどんな冗談だよ!!!」
「って、リュウジ。失礼だな」
 むすっと言ったらリュウジがオレの背中をばしっと叩いてこう言った。
「ハヤト。お前がそれでどうすんだ? この企画はいわばお前が支柱だろ。しっかりしようぜ。いつも通りでいいんだからな。ハヤトは特に、前にライブハウスとか出てただろ? 舞台経験者なんだし、落ち着いてればそれで大丈夫だぜ。な、ハヤト?」
 不思議だ。リュウジがオレの目を見てそう言っただけでなんだか落ち着くオレがいる。

 ひとつ大きく深呼吸。そのあとオレは思い出したので言ってみた。
「そうだ。ライブって言えば、ステージに上がる前に円陣組んで気合い入れたっけ」
「なるほどな!!! よし、やってみるか」
 そしてオレたちは輪になって、それぞれ右手を真ん中に出し合って。
「よっしゃ!!! 気合い入れてくんで夜露死苦ぅ!!!」
「夜露死苦ぅ!!」
 リュウジの先導に従ってみんなで声を出す。うん、それで完全に気分が切り替わった。
 あとはやるだけ。やれるところまでやるだけだ。
 そうして今度は長々と鐘の音が公園に響き渡った。開演時刻の合図だった。

 ダイゴとオレは客席後方からの登場となる。いったん舞台袖からこっそりと出て公園の外を回って持ち場へスタンバイ。
 舞台背面のパネルには、書き割りの代わりに商店街で実際に撮影された写真を大きく引き伸ばしたものが貼られている。商店街の写真館の人がやってくれたんだと昨日リュウジが教えてくれた。
 
 舞台にリュウジが出る。両脇には俊也さんと白鳥先生。すると客席から拍手が起こった。
 リュウジの衣装は昇龍軒の上っ張り。俊也さんはねじりハチマキとゴム長姿、それから白鳥先生はあおいさんに借りたらしい店名入りの前掛けをつけている。
 ちなみに本番の今日は全員ワイヤレスのピンマイクをつけることになっている。
「オウ、みんな元気そうだな!!!」
「あ、リュウジだっ」
「は~い!! げんきだよ~!!」
 リュウジの呼びかけに、口々に客席の子供たちが応える声。
「元気なのは魚食べてるからだよな? 知ってるか? 魚食べると頭よくなるんだよなー」
 稽古のときよりもおどけた口調で俊也さんが言った。
「ふふふ。女の子は笑顔が素敵だ。どの笑顔にも花が似合う」
 白鳥先生は手に持っていた赤いチューリップを、客席の女の子に差し出した。
 受けとった子はうれしそうにしていたし、大人のお姉さんとおぼしき観客からは羨望のため息が聞こえてきた。
「今日も鬼浜町商店街は元気で楽しくて平和で、最高だよな!!!」
 拳を握った右腕を体の前にもってきて、リュウジは大きく言い放った。
 当然のように客席からはいいお返事。立ち上がって飛び跳ねてる子なんかもいた。
 うん。つかみは上々だ。




地元から20km 3-3



 結局オレたちは荷物をその場に置いて、逃げまどうゴンタ捕縛に加勢した。
 標的まではかなり距離があったけれどもゴンタはそれほど走るのが速いわけではないようだ。それでもなかなか捕まえられないのは、ゴンタが追っ手を無差別に振り払うから。
 俊足のハンゾウとリュウジがゴンタに追いついたのは、期せずして昇龍軒の前だった。
 リュウジはさらにゴンタの前に回り、大きく両手を広げて制した。ゴンタは一瞬怯む。
「おい、ゴンタ!!! お前、止まれっての!!! これより先で騒ぎ起こしたらただじゃ済まさねえぞ? 鬼浜町商店街は楽しく平和にお買い物、が売り文句だからな!!!」
 足を止めたもののまだうなり声を上げているゴンタの両腕は、背後でハンゾウとタカシにねじり上げられていた。
 目前のリュウジに気を取られているゴンタの隙を突いたのはダイゴだった。
 ダイゴは拳を握り、ゴンタの体の斜め後ろに立って脇腹を狙ったんだ。
「ウオォォォォ……ッ――――」
 巨体をふたつに折って、ゴンタは呻いて――そして倒れておとなしくなった。
 その様子を見て、リュウジが言った。
「ノブオ。中入ってやかんに水汲んで来い。ハンゾウ、それ受け取ったらゴンタの頭にでもかけてやれや。ちっとは冷静になるだろうからな」
「ああ。恩に着る、総隊長」
「いや、その必要はねえ。俺はただ、ちょっとした事故から俺の地元を守っただけだぜ」
 鬼浜町商店街の入り口にある昇龍軒は、商店街の門番として機能しているんだな。

 騒動が収束して、暗黒一家の連中はゴンタの体を半ば引きずって駅の方に戻っていった。
 すこし落ち着いたらしいゴンタは、今度はすすり泣いていた。なんか切なそうに見えた。
 日頃のあれこれは抜きにして、ハンゾウやタカシは本気でオレたちに礼を言ってた。
 暴れるゴンタってのは仲間にとっても手に負えないんだな、なんて他人事ながらに同情してみたりして。

 そしてオレたちも一旦駅へ戻って、あらためて荷物を持って昇龍軒へと戻ってきたんだ。
 昼の開店前の昇龍軒のテーブルで、瓶入りコーラを振る舞ってもらってる。
「しかし、何だ。コウヘイの奴、海外旅行とは豪勢なもんだな」
 なんてリュウジが、気の抜けたような口調で言ってる。
「ああ、家が裕福だって玉城が言ってたね」
「まあな。それはいいとして、こうなるとしばらく暗黒一家も大人しくしてるよな?」
「そうかも知れんな。下手にゴンタを刺激するのはハンゾウらにも得策ではなかろうし」
「そうっスね。オレもそう……ああ、電話っス」
 言ってノブオは席を立った。さすがアルバイト店員の身のこなしだな。
「ともあれ、当面俺たちが平和ならそれに越したことはねえよな。俺らだってそうそう暇じゃねえし。何つったって、イベントが控えてるしな!!!」
 と、リュウジはオレを見て言った。
「ん? イベント? なんかあったっけ?」
「あ、いや、間違えたぜハヤト。今のは聞かなかったことにしろな。わはははは!!!」
「なんだよ、気になるじゃん。な、ダイゴ?」
 なんて、ごまかし下手のリュウジがオレたちに尋問されるのをノブオの声が遮った。
「兄貴ぃ、電話っス。実行委員長さんからっスよ~」
 呼ばれたリュウジはっとなって、そして慌てたようにノブオに返す。
「ああっ、馬鹿、ノブオ!!! 大きな声で実行委員長とか言うんじゃねえっての!!! それはまだ内緒だって言ったじゃねえか」

 なんだか知らないけど、ダイゴやオレにはまだ内緒の、実行委員長さんがいるようなイベントがあるみたいだ。
 放っておけばごまかせるだろうに、リュウジの反応からそれは簡単に見てとれる。
 なんだろうね、とダイゴと目を見合わせて、それからふたりしてくすりと笑った。

 何はともあれ、ここは鬼浜町。もしかしてこの先、昔のそこよりもオレにとっての『地元』と感じるようになるかもしれない町。
 仲間がいて、敵がいて。ときに平和でときに物騒で――いろいろあるけどオレには至極居心地のいいこの町を、ここから20kmの距離にいる仲間たちにも見せてやりたい、なんて思う。
 こういう気分こそが、タクミが感じ取った昔のオレと違うところなのかもしれない。
 タクミに連絡をとって、近いうちに昔の地元に遊びに行こう。
 オレの新しい地元の仲間たちも、声をかけたら付き合ってくれるかな。

 
   * 完 *



地元から20km 3-2



 駅の向こうに家のあるオレだけど、今日は手分けして荷物を持っている関係で一旦昇龍軒までお供の身。とはいえ、つい習性で駅のほうに目がいった。
 入口にはロータリー、その向こうが駅舎。オレの視線は駅舎のほうへ向いている。
 そんなオレの目に飛び込んできた光景は、足を止めざるを得ないもので――
「あ……れ?」
「うん? どうかしたか、ハヤト?」
 一歩前を歩いていたリュウジがオレの様子を敏感に察して振り向いた。ダイゴもノブオもリュウジに倣う。
「ほら。あれ、コウヘイじゃない?」
「何? お、本当だな」
 見ればやけに大きなスーツケースを横に置いたコウヘイが腕組みをしているところ。
 その向かい側には20人ほどの男どもが並んでおり、声を合わせてこう言ったところ。
「いってらっしゃいませ、総帥」

「いってらっしゃい、だと? そんな大仰に見送られて、しかもあんな大荷物で――」
 大勢の声を聞き取って、リュウジはこう呟いた。
「もしかしてコウヘイ、やっぱり行くことにしたのかな?」
「行く、って、ハヤト――奴、マグロの養殖はやめたんじゃねえのか……?」
「さあ。オレにはわからない」
 事情が飲み込めないまま、オレたちは4人してその光景を眺めていた。
 仲間の挨拶を聞くと、鷹揚に頷いてコウヘイは歩き出す。スーツケースを牽いて駅構内に吸い込まれてゆくまで一度も振り返らなかった。
 微動だにせずそれを見守っていたコウヘイの仲間――暗黒一家の連中の中に動きが見て取れたのは、コウヘイの姿が見えなくなったあとのことだった。

「ウオオオォォォォォ――――ッ」
 雄叫びが駅周辺に響いた。
 どうした――? とオレたちが顔を見合わせる。
 駅舎の前の集団の、中のひとりが暴れているのが見えた。慌てて抑えようとする周囲の者たち。それを振り払って、ものすごい勢いでこちらに向けて駆けだしてくる暴れ者。
「うわ、なんだ?」
 すんでのところで暴れ者――ゴンタに体当たりされそうになったオレは、それを交わして呟いた。走り去ったゴンタは未だ絶叫している。
 ゴンタを追って次々に、暗黒一家の連中がオレたちを追い越して駆けていく。
「早く……早く追いかけないと!! ゴンタさんを捕まえないと町が壊れるぅぅぅ」
 追っ手の先頭のタカシが必死の形相だったのを見た。

 事情説明は、集団の最後にいたハンゾウが請け負った。リュウジが名前を呼ぶと、いとも簡単に追う足取りを奴は止めたから。
「おい、ハンゾウ。あれは何だ?」
「ああ――総隊長。もしも暇だったらゴンタの捕獲に手を貸してほしいとは思う」
「いや、暇ってか、忙しくはねえが……それにしたって、ゴンタどうしたんだ? ってかそれより、コウヘイの奴、あんな大荷物持ってどこか行くのか?」
「総帥は海外へ。それが何か?」
 こともなげに言うハンゾウに向けて、対照的にリュウジはいきり立った。
「海外だと!!! ハンゾウ、奴、留学はやめたんじゃねえのか? 話が違うぜ――俺には結局、ひとことの挨拶もねえのかよ!!!」
 ハンゾウの革ジャケットの襟を掴んで、リュウジは問い詰めた。 
 それへ涼しい顔でハンゾウは返す。
「総隊長、冷静に。ゴンタじゃあるまいし。総帥はしばらくの間、海外在住の親戚を頼って旅行するというだけのこと。ゴンタのあれはただの過剰反応。奴は総帥に懐いているので、置いて行かれて拗ねている。わかったら手を貸して欲しい。ゴンタの暴走を簡単に止めるられるのは俺達の中でも総帥だけだ」



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